私は忙しい仕事を抱えながら、日々あわただしく過ごしています。母とは最近ほとんど会えておらずせいぜい数か月に一度、電話で話すくらいです。ここ数年仕事が忙しくなり、つい帰省の回数も減っていました。「親孝行しなければ」と思うことはあっても気がつけば仕事に追われ、母に電話をかけるのも後回しにしてしまうことが多かったのです。

しかしそんなある日、母から久々に電話がかかってきました。「最近私も終活を考えるようになったのよ」と言う母の言葉に、思わず黙ってしまいます。母が「終活」という言葉を使う年齢になったのかと思うと、なんとも言えない気持ちが込み上げてきました。疎遠になっている間に母も歳を取り、人生の終わりを意識するようになったのかもしれません。電話で母は「あなたには迷惑をかけたくないからね」と明るく話していましたがその言葉に、今まで母を気にかけてこなかったことへの後悔が頭をよぎりました。

電話での会話の中で淡々と「今、いろんなものを片付け始めている」と話し始めます。実家の物置にあるアルバムや古い日用品や昔から大切にしてきた調度品など、今のうちに必要なものと不要なものを分けておきたいとのことでした。「私がいなくなった後であなたが困らないようにしておきたいの」と言いましたが、それはどこか寂しげな響きがありました。私はそのとき、ようやく「終活」を始めた本当の理由に気づきます。終活とは単に物を整理するだけでなく、自分がこれまで生きてきた証を少しずつ手放す作業でもあったのです。

母は「最後のときは、なるべく自然な形で見送ってほしい」と話しました。母にとっては長生きすることよりも、「自分らしく」最期の瞬間を迎えたいという気持ちが強いようでした。もし認知症や意識がなくなったり身体が動かなくなってしまったでも、無理に延命するのではなく自分の最期を穏やかに迎えたいとのことでした。私はその話を聞き母が自分の人生の締めくくり方を冷静に、でもとても大切に考えていることを感じ心の中で母の意志をしっかりと受け止めようと決めました。

こうして母の終活について話を聞くうちに私は少しずつ自分の人生観を整理し、「自分らしくありたい」という意志で生きていることに気づきました。これまで疎遠になりがちだった私ですが母との時間を少しずつ大事にし、いつか迎えるその日まで後悔のないように過ごしたいと強く思うようになります。私に教えてくれた「自分らしく生きること」の大切さを胸に、これからも仕事の合間に時間を作って話す機会を増やしていきたいと思います。